2026年10月11日 8時15分 プレジデントオンライン
日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「海外に比べると規制が緩いというのが強みになっている。最近の作品では、猫がタバコを吸うなど『ヤニ』を舞台装置として使った2作品が人気だった」という–。
■今期1位でも賛否両論だった「おじさん転生アニメ」
世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。
3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。
ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。
ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。
2026年7~9月は『無職転生~異世界行ったら本気だす~』一強であった。
34歳引きこもりの無職男が交通事故死し、剣と魔法の異世界へ赤ん坊として転生するというストーリー。異世界転生ファンタジーの金字塔といわれる作品で、2012~15年に「小説家になろう」に掲載され、2021年にスタートしたアニメは今回が3期(2026年Q3、2027年想定)となる。すでに盤石の人気で、24万人いたMembersは3カ月後には35万超え、評価Scoreも8.7と高位安定だ。
筆者作成
ただ、日本でもそうであるように、本作はかなり賛否両論が極端に分かれる。
Recommend(おすすめ)437件に対して、Not recommendが172件もついている。トップアニメでこれだけ否定的意見が多いアニメも珍しい。
今回のダークホースとなったのは「ヤニ(タバコ)」である。すなわちMembers数が3.5倍まで膨れ上がった「ヤニねこ」、そして「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」(ヤニすう)である。特に「ヤニすう」は、ここまで抑揚のない日常アニメがトップ3に入り込んだことは記憶にない。Members数で25万超え、堂々第3位に入っている。
「ヤニねこ」から見ていこう。
これはScore 7.0という数字からも分かるように、評価のわかれる作品だ。めちゃくちゃ低評価ではないが、上位にくるアニメにしては低い評価といえる。
海外ファンのコメントを見ると、「喫煙、飲酒、そして人生を破滅させるあらゆる悪徳に耽ることを視聴者に思いとどまらせる、驚くほど不快なネコアニメ。」「人の下品さに弱い人は、見ない方がいい! 見ないで! このアニメは子供向けでも家族向けでもない。」「うんち、嘔吐物、お尻に関するジョークが満載です。」と本当に上位5位とは思えない評価が並ぶ。それでも、だ。不思議なことにコメントとは対照的に「おすすめする」を指定しているユーザーが並んでいる。
「ヤニねこ」は、動画配信サービス「ニコニコ」で配信している2026年夏アニメ全作品(無料・有料作品含む)の初速ランキングで1位だった。
人間と獣人が共存する街を舞台に、タバコと酒とダラけた生活を愛する主人公・ヤニねこを描く。全12話を通して、金なし・生活力なしのヤニねこが、ヤクねこやハメねこ、アルねこといった“クズ”の仲間たちとボロアパートで繰り広げる、モラル皆無でシュールな日常アニメだ。すべてのネコ(化した女性たち)がなんらかの「中毒」を患っている。
本作の作者は「にゃんにゃんファクトリー」という3人組の集団だ。3人が持ち寄りでSNSに自主制作のイラスト・漫画でUPしていた。
猫というカモフラージュによって、「中毒性のなかで自堕落に生きる姿」はある程度中和されており、数コマでオチまで完結させる短尺モノにもかかわらず2023年からコミカライズされ、そして2026年7月にバイブリーアニメーションによってアニメ化が実現した。
興味深いコメントを紹介しよう。「ユーモアは非常にドタバタで、脚本はウィットに富み、シナリオは非常に奇抜です。健全な日常系アニメというよりは、トムとジェリーに近い感じです。」「好色な大家と、ひどいジョークを連発するセクシーな猫を除けば、登場人物は誰一人として普通ではない。でも、そもそも普通って何だろう?」
時に退廃性は人を安心させるのだろう。
この下品さ退廃さは自嘲的な欧米ユーザーの心にもしっかり刺さっている。この作品も香港では香港政府衛生署の指導によって途中で配信停止になっている。
続いて「ヤニすう」だ。「ヤニねこ」は似たような名前だが、全く違うドラマだ。
この45歳男性と24歳女性の「スーパーの裏でタバコを吸う関係」から生まれるドラマという、なんでもない日常アニメが今回は快作となっている。
鈍感な45歳男性・佐々木にとって、スーパーのレジ打ちの「山田さん」に日々癒やされている。ある日、ギャルの「田山さん」という女性とスーパーの裏でタバコを吸うことになった。実は山田と田山は同一人物なのだは、佐々木はそれに全く気付かず、山田への淡い恋心を田山に相談しながら2人の距離が近づいていく恋愛ストーリーだ。
「関係性の発展も非常に遅い」「視聴者は次第に飽きてしまうでしょう」というほどにスピードには欠けるが、内容と非常に歩調があっているように私は感じる。
海外のファンのコメントを見ると「この番組は私に希望、幸福、穏やかさ、内省など、たくさんの感情を与えてくれました。」「心温まる、心地よい物語で、登場人物たちの幸せを心から願い、彼らの旅が最終的にどこへ向かおうとも、その幸福を応援したくなります。」と2人の純な関係性を推し活のように見守り続けている。
英語ユーザーにとってもこのアニメの楽しみ方は全く同じなのだ。週末にゆったりと視聴したくなるアニメだ。
そんな中でハッとした意見があった。
「30代後半から40代前半の会社員には、独特の孤独感があります。特に夜勤だと、その孤独感は顕著です。それを「境界」と表現しても、気取っているようには思えません。実際、多くのものの境界線上にいるのですから。昼と夜、若さと中年、キャリアの進展など」。別のユーザーは「いつもの慌ただしい一日とは全く異なる領域にいるような、境界的な感覚」と書いていた。
つまりこれは「人生の境界」にいる男女の物語なのかもしれない。夕暮れのような静けさのなかで傷をおそるおそるなであうかのように、ゆっくりとした共感のなかで2人の絆が生まれていく。その媒介になるのは「タバコ」なのだ。
ここに「タバコ喫煙を助長する」「中毒患者を増やす」といったポリティカルコレクトネスを主張するのはあまりに無粋だ。結局はファンタジーなのだ。我々が日々感じていることを代弁するためのメディアで、「正しさ」をもって制約を課すことがいかに表現にとってマイナスであるかを改めて感じる。
筆者作成
■絵柄が最高に良かった「天幕」
「ヤニすう」も「かけ恋」も、「内向性やその繊細な心理的成長の物語、というのはもはや日本アニメのお家芸になりつつある」というレビューどおり、この微細なアニメ描写は世界に通じる。むしろ「話が(すぐには)展開しないスローテンポな人間関係構築」がリアリティをもち、英語ユーザーにも刺さっている。
最後に18位の『天幕のジャードゥーガル』(天幕)を取り上げたい。
本来、20位前後の作品を本連載でとりあげることはめったにない。だがそうしたトップ作品にばかり目を向けていると、宝石のように輝く美しき作品を取りこぼすだろう。
このモンゴル帝国が中央アジア、インド・中東・東欧・ロシアを征服しているコアな歴史ストーリーを描いた「天幕」こそ、私自身が今年一番ハマったアニメである。
「時折、人生観や世界観を根底から変えてしまうようなアニメに出会うことがある。昨年は私にとって『Orb(邦題:『チ。 -地球の運動について-』)』だったが、今年は『ジャードゥーガル』だ。これは最高レベルの芸術性であり、私がこれまで見てきた中でも最も情熱的に作られた作品の一つだ」
天幕はストーリーだけでなく絵柄が最高にいいのだ。
あるファンは「第1話の半分ほど見たところで、キャラクターや世界観が生き生きと描かれていることに気づき、すっかり魅了されてしまった。表情や身振り手振りで、幅広い感情が容易に伝わる。色鮮やかな背景が画面いっぱいに広がり、まるで絵本から飛び出してきたかのようだ」と書いた。
キャラクターはかなりデフォルメが強く、子供向け絵本のようだ。だが内容は、街を征服して都市の数十万人の人口の3分の2を大虐殺してしまうような恐るべき時代をそのままドキュメンタリーのように描く。この画風は逆に本作のはなった異彩を正しく受け止めるものになっているようにすら感じられる。
本作品に強い愛情を覚えるのは、作家自身のこの文化圏に対する惜しみない愛情が随所で感じられるからだろう。それは海外ファンも同様のようだ。
「アニメーションと中央アジアの文化・歴史への、まさにラブレターと言える作品だ。モンゴルやアジアの草原地帯の生活や文化、中世ペルシャ文化、イスラムの学問を、歴史的に最も正確に描写するために、一切の費用を惜しまなかった」「都市のレイアウトや当時の構造は完璧に描写されている。イスラム教徒の生活様式はステレオタイプに陥ることなく、本物らしく美しく描かれている。モンゴル人についても同様だ。これほど質の高いアニメに最後に出会ったのはいつだっただろうか」
ハリウッドが描いたとある時代の日本人の姿に我々が感動してしまうように、当人たち以上に客観的かつ愛情をもった目線で、日本のアニメは「他人のストーリー」を美しく理解可能で愛情深く慈しむものに変えてしまう力を持っている。
この残酷で美しい世界を奴隷として必死に生きたファーティマは、なにせ実在した人物であり、チンギス・ハーンの子孫をめぐる政治劇はそのほとんどが「史実」なのだから。
こうした作品が生まれ続けていることそのものに深く感謝したい。
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)
お前ら通報頼むぞ
なぜ昔助けた店員を忘れているのか
店員もなぜ助けられた人が佐々木だとわからないのか?
ヤニねこは一話で切った
同じヤニなのに
クスッ
日本人として誇らしいです
アニメ化前から同業者評価高い作品なわけで漫画描いてる人にはこうなることは予見できてたわけだ








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